油団とは

油団とは

柱影映りもぞする油団かな――

高浜虚子

かつて涼を取るための生活用品として、日本人の暮らしの身近にあった油団をご存知ですか? 当店は、現在、 日本で唯一の油団づくりの技術を継承しています。

紅屋紅陽堂 四代目/一級技能士 牧野由尚

日本で唯一の「油団」づくりの技を、

残し伝える。

100 年使える、夏の涼感アイテム。

 油団とは和紙を貼り重ね、表面に油を塗った夏用の敷物のこと。ひんやりとした感触が特徴で、夏に涼を取るための生活用品として使用されてきました。油団独特の心地よい涼感がなぜ生まれるのかは、科学的にははっきり解明されていません。ルーツと推察されるのは韓国の床下暖房「オンドル」の技術で、日本の気候風土に合わせて知恵と工夫を加え、じめじめとした夏を涼しく過ごすためのアイテムとして開発されていったと考えられています。当店では初代店主が他の表具店から製造法を教わったのが、油団づくりの始まりです。
 使い込むほどに色艶が増し、うまく手入れすれば100 年使える油団。冷房技術の発達に伴い需要が減り、現在も製造を続けているのは、当店のみ。その技術は福井県指定無形民俗文化財に指定されています。

表具師ならではの技術を、
油団づくりで活かす。
 

 油団は和紙を貼り合わせて作ります。和紙に薄く糊を塗り、貼り重ねるごとに「打ち刷毛」で叩きつけて繊維を一体化。この作業を繰り返し、13~15層貼り重ねていきます。糊づけした和紙を打ち刷毛で叩くのは掛け軸でも使う技法で、油団はこの技を持つ表具店だからこそ、作ることができるのです。和紙に塗る糊は柔らかい方が仕上がりが良く、糊の濃さを必要最低限の濃度に調整するのも表具師の腕の見せどころです。また、油団は丸めて仕舞うので、表面に貼る和紙は「縦目」「横目」をバランスよく組み合わせ、巻き癖が付きにくいよう貼り合わせていきます。

 和紙を貼り重ねた後は、裏面に柿渋、表面にえごま油を塗って、天日で乾燥させます。天日干しは30℃を超える気温での乾燥を必要とするため、主に夏場に作業を行います。乾燥を終えて寝かせた後は、つぶした豆腐を擦り込んで仕上げます。昔から伝わる方法で、表面に独特の艶が生まれます。
 数ヶ月をかけて出来上がった油団は、完成直後はほぼ白に近い茶色ですが、使い込むうちに飴色に変わっていきます。経年変化を楽しめるのも油団の特徴です。

新規製造から修理、レンタルまで。
代々の技を現代に。

 このように、油団の製造には手間と時間がかかります。製造プロセスは気温や湿度に左右される部分も大きく、途中で失敗すると、それまでかけてきた時間と労力が無駄になるというリスクもあります。にもかかわらず、当店が油団を作り続けている理由。それは、お客さまが喜んでくださるからに他なりません。油団は、1 畳約15 万円。決して安い品ではありません。使い続けていただくには、拭いて艶を出したり、夏が終われば巻いて片付けたりと、手間もかかります。それでも油団を使いたいという方は気持ちにゆとりがあり、日本の伝統技術に理解を持ってくださっている方が多いです。
 そんな方々の要望に、出来る限りお応えしたいという想いが、油団を作り続ける原動力となっています。

 また、私どもは油団の技法を初代から2 代、3代と受け継ぎ、工夫を積み重ねてきたという自負があります。そんな思いを抱きながら、当店では油団づくりを続けています。
 現在は、新規のご依頼だけでなく、油団の修理をお受けすることも増えています。当店では穴あきや折れの修繕、大きな油団のサイズダウンなどのお直しに対応しています。また、油団の貸し出しも行っています。「家に油団があるけどどう使っていいかわからない」「一度体験してみたい」など、油団に関するご相談事があれば、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

PAGE TOP